大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成3年(行ケ)66号 判決

原告

有限会社福島製函所

被告

特許庁長官 深沢亘

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第18785号事件について平成3年1月24日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和57年6月30日、考案の名称を「運搬用パレット」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(昭和57年実用新案登録願第98643号)をしたところ、平成元年9月4日、拒絶査定を受けたので、同年11月17日、審判の請求をし、平成1年審判第18785号事件として審理された結果、平成3年1月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がされ、その謄本は、同年3月6日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

間隔をおいて並列した矩形状の角形スチールパイプの枕台に対し、その上下面にこれとクロスする方向に偏平矩形状の角形スチールパイプを取り付けてスチールパイプ製の骨組みとなし、これに、少なくともフォークリフトのフォークを差し込む側の辺縁部の上下に独立気泡性の発泡合成樹脂板を取り付けたことを特徴とする運搬用パレット(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  本件出願前に国内において頒布された刊行物である昭和53年実用新案出願公告第41257号公報(以下「第1引用例」という。)には、間隔をおいて並列した矩形状の台木に対し、その上下面にこれとクロスする方向に偏平矩形状の桟板を取り付けて木製の骨組となし、これに、フォークリフトのフォークを差し込む側の辺縁部の上下に低発泡合成樹脂板を取り付けた運搬用パレット(別紙図面2参照)が、同じく本件出願前に国内において頒布された刊行物である昭和50年実用新案出願公告第28540号公報(以下「第2引用例」という。)には、木製パネルは吸水性が大きいという欠点を解消するために、間隔をおいて並列した矩形状の発泡スチロール製のケタの上面に薄鋼板製のデッキボードを取り付けた運搬用パレット(別紙図面3参照)が、それぞれ記載されている。

(3)  本願考案と第1引用例記載の考案とを対比すると、第1引用例記載の考案の「矩形状の台」及び「低発泡合成樹脂板」がそれぞれの機能に照らし、それぞれ本願考案の「矩形状の枕台」及び「独立気泡性の発泡合成樹脂板」に対応するものとみることができるので、両者は、間隔をおいて並列した矩形状の枕台に対し、その上下面にこれとクロスする方向に偏平矩形状のものを取り付けて骨組となし、これに、フォークリフトのフォークを差し込む側の辺縁部の上下に独立気泡性の発泡合成樹脂板を取り付けた運搬用パレットである点において一致し、骨組を構成する矩形状の枕台及び偏平矩形状のものが、本願考案においては角形スチールパイプからなるものであるのに対し、第1引用例記載の考案においては木からなる点で相違するものと認められる。

上記相違点についてみると、本願考案と同様の課題、すなわち、木製のパレットが含水し易いという欠点を解消するために、材料を木から鋼、つまりスチールに代えるということが第2引用例に記載さており、かつ、骨組がスチール製の運搬用パレットは従来周知である(例えば、「包装資材データブック-工業製品編-」別冊化学工業15-8 昭和46年10月1日 化学工業社発行の第216頁ないし第219頁参照。以下「甲第13号証」という。)ので、骨組を木からスチールに代えることは、当業者にとって格別困難なことではないというべきであり、更に、角形スチールパイプを用いる点は、角形スチールパイプ自体、従来周知であり、しかも、軽量化のためにパイプを用いることは、これまた従来周知のことであって、この点は、当業者が適宜に採用し得る単なる設計事項というべきである。

また、本願考案の効果についてみても、第1引用例及び第2引用例記載の各考案並びに従来周知の事項のそれぞれがもつ効果の総和以上の格別の効果とは認められない。

したがって、本願考案は、第1引用例及び第2引用例記載の各考案並びに従来周知の事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

本願考案の要旨、第1引用例及び第2引用例の記載内容、本願考案と第1引用例記載の考案との相違点についての審決の認定は認めるが、本願考案と第1引用例記載の考案との一致点についての審決の認定及び相違点に対する判断は争う。

審決は、本願考案と第1引用例記載の考案との一致点の認定を誤り、また、相違点に対する判断をするにつき実用新案法第41条において準用する特許法第159条第2項において準用する同法第50条の規定に違反するか又は相違点に対する判断を誤り、更に本願考案の奏する顕著な作用効果を看過し、もって本願考案の進歩性を誤って否定したもので違法であるから、取消しを免れない。

(1)  一致点認定の誤り

審決は、本願考案と第1引用例記載の考案とは、間隔をおいて並列した矩形状の枕台に対し、その上下面にこれとクロスする方向に偏平矩形状のものを取り付けて骨組となし、これにフォークリフトのフォークを差し込側の辺縁部の上下に独立気泡性の発泡合成樹脂板を取り付けた運搬用パレットである点において一致すると認定している。

しかし、本願考案の発泡合成樹脂板は、別紙図面1から明らかなとおり、合成樹脂板そのものであるのに対し、第1引用例記載の考案の低発泡合成樹脂板は、別紙図面2から明らかなように、単独のものではなく、木製の端板の外側部に補強材として結合させて取り付けたものにすぎない。

本願考案は、合成樹脂板そのものを独立して用いることにより、明細書に記載されている「発泡合成樹脂板の破損に対しても容易に交換することができる。しかも、角形スチールパイプと発泡合成樹脂板との組合わせであるから、特別注文をしなくとも、材料入手も容易で、製作も簡単であるから安価に提供することができる。」(平成元年12月8日付け手続補正書別紙第9頁第7行ないし第12行)という効果を奏するものである。

本願考案の発泡合成樹脂板と第1引用例記載の考案の低発泡合成樹脂板とはこのような相違があるにもかかわらず、審決は本願考案と第1引用例記載の考案とは「フォークリフトのフォークを差し込む側の辺縁部の上下に独立気泡性の発泡合成樹脂板を取り付けた運搬用パレットである点で一致する」と認定したもので、誤りである。

(2)  相違点に対する判断の誤り

① 審決は、相違点に対する判断において、甲第13号証を引用して、骨組がスチール製の運搬用パレットは従来周知であるとし、これを理由に、第1引用例記載の考案の運搬用パレットの骨組を木からスチールに代えることは、当業者にとって格別困難なことではないと判断し、更に角形スチールパイプ自体従来周知であり、軽量化のためにパイプを用いることも周知であるので、運搬用パレットの骨組にパイプを用いることは当業者が適宜採用し得る単なる設計事項であると判断している。

しかし、審決が示した以上の理由は、拒絶査定の理由とはされていなかったものであり、甲第13号証という新たな証拠を論拠とした新たな拒絶理由というべきであるから、審判において実用新案法第41条において準用する特許法第159条第2項において準用する同法第50条の規定により、原告に通知して意見を述べる機会を与える必要があったにもかかわらず、その通知をしなかったものである。

したがって、上記の理由によって本願考案の進歩性を否定した審決は、その理由の当否を問うまでもなく、違法であって、取消しを免れない。

② 仮に①の主張が理由がないとしても、審決が示した理由は何ら根拠がなく、誤りである。

すなわち、第2引用例及び甲第13号証のいずれにも、運搬用パレットの骨組として偏平矩形状のスチールパイプを用いることについて記載も示唆もされていない。また、角形スチールパイプ自体は周知であり、これが軽量なものであるとしても、このような性質を利用して角形スチールパイプを運搬用パレットの骨組に用いるという技術的思想については、これを裏付けるものはない。

したがって、運搬用パレットの骨組に角形スチールパイプを用いることは、当業者が適宜採用し得る設計事項であるということはできないものである。

(3)  本願考案の奏する作用効果の看過

審決は、本願考案の効果は、第1引用例及び第2引用例記載の各考案並びに従来周知の事項のそれぞれがもつ効果の総和以上の効果とは認められないとする。

しかし、本願考案は、①虫がついて朽腐したりするおそれが全くない、②多量な水を含浸することがないから、段ボール箱、その他水分をきらうような荷物の使用にも差支えない、③スチールパイプの骨組であるから、極めて堅牢にもかかわらず、比較的軽量である、④フォークを差込む側の辺縁部に独立気泡性の発泡合成樹脂板を用いることにより、フォークの滑り及び触れ合いによる騒音の発生を防止することができる、⑤スチールパイプ製の骨組をもって構成されているにもかかわらず、両側面を使用することができる、⑥発泡合成樹脂板の破損に対しても容易に交換することができる、⑦角形スチールパイプと発泡合成樹脂板との組合せであるから、特別注文しなくとも、材料の入手が容易で、製作も簡単であるから、安価に提供することができる、という顕著な作用効果があり、このうち③ないし⑥の作用効果は格別のものである。

これらの効果は第1引用例及び第2引用例記載の各考案並びに従来周知の事項の総和をもってしても奏するものではなく、審決の前記判断は誤りである。

第3請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  同4は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

(1)  一致点認定の誤りについて

原告は、本願考案の独立気泡性合成樹脂板は、合成樹脂板そのものであるのに対し、第1引用例記載の考案の低発泡合成樹脂板は、単独のものではなく、木製の端板の外側辺に補強材として結合し取り付けたものであるにもかかわらず、審決が、本願考案と第1引用例記載の考案とは、フォークリフトのフォークを差し込む側の辺縁部の上下に独立気泡性の発泡合成樹脂板を取り付けた運搬用パレットである点において一致すると認定したことの誤りをいう。

しかし、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「・・・これに、少なくともフォークリフトのフォークを差込む側の辺縁部の上下に独立気泡性の発泡合成樹脂板を取付けた・・・」と記載されているところ、この記載は、独立気泡性の発泡合成樹脂板を、一枚の端板として辺縁部の上下に取り付ける場合の外、端板と接合させて辺縁部の上下に取り付ける場合をも含んだものと解釈できるものであり、本願考案は、独立気泡性の発泡合成樹脂板を端板と接合させて辺縁部の上下に取り付けた構成を排除するものではない。

したがって、審決の前記一致点の認定に誤りはなく、原告の主張は、本願考案の要旨に基づかないもので、理由がない。

(2)  相違点に対する判断の誤りについて

① 原告は、審決が相違点について示した甲第13号証を引用しての判断は、拒絶査定の理由とはされなかった新たな拒絶理由であるから、原告に通知して意見を述べる機会を与える必要があった旨主張する。

しかし、本願考案が公知技術からきわめて容易に考案をすることができたかどうかを判断するに当たっては、出願時のその考案の属する技術分野における技術常識や技術水準が前提となっていることはいうまでもない。そして、当業者が技術常識あるいは技術水準として当然に了知しているような周知の事項については改めて意見を述べる機会を与える必要のないことは明らかである。

原告が新たな証拠と主張する甲第13号証は、本件出願時における当該技術分野の一般的水準を示すために単に参考のために例示的に提示したにすぎないものであり、新たな証拠に該当するものではなく、また、角形スチールパイプ自体及び軽量化のためにパイプを用いる点については、周知例等を例示するまでもなく、本件出願時に周知の事項である。

審決が周知であるとした点は、いずれも本願考案と第1引用例記載の考案との相違点につき、第2引用例を用いての進歩性の判断において前提となっている当該技術分野における一般的技術水準を示したにすぎず、こられは新たな拒絶理由に当たるものではなく、審決は、原査定の拒絶の理由と本質的に変わらない理由によってなされたものである。

したがって、審決に原告主張の手続違反はない。

② 原告は、第2引用例及び甲第13号証のいずれにも、運搬用パレットの骨組として偏平矩形状のスチールパイプを用いることについて記載も示唆されておらず、また、角形スチールパイプ自体は周知であり、これが軽量なものであるとしても、このような性質を利用して角形スチールパイプを運搬用パレットの骨組に用いるという技術的思想については、これを裏付けるものはないとして、運搬用パレットの骨組に角形スチールパイプを用いることは、当業者が適宜採用し得る設計事項であるとした審決の判断の誤りをいう。

しかし、第2引用例には、木製のパレットが含水し易いという欠点を解消するために、材料を木から鋼すなわちスチールに代えることが記載されており(第1欄第20行ないし第23行)、当業者が、第1引用例記載の考案の運搬用パレットについて、この含水の問題を解決するため、木の骨組の全体をスチール製のものとすることに格別の困難性があるとすることはできない。

また、パレットの骨組をスチール製のものとする場合、可能な限り軽量なものにする必要のあることは、パレットが運搬の用に供されるものであることから、当業者ならば当然配慮するところであるというべきところ、スチールパイプが製品の軽量化を実現するためのものとして従来周知であるから、スチール製の骨組材料として角形スチールパイプを用いることは当業者の単なる選択事項にすぎないというべきである。

したがって、骨組を構成する矩形状の枕台及び偏平矩形状のものが、角形スチールパイプであるか木であるかの相違点は、当業者がきわめて容易に想到しうる程度のものであって、審決の判断に誤りはない。

(3)  本願考案の奏する作用効果の看過について

原告は、本願考案の効果は、第1引用例及び第2引用例記載の各考案並びに従来周知の事項のそれぞれがもつ効果の総和以上の効果とは認められないとした審決の判断の誤りをいう。

しかし、原告の主張の⑤の効果は、パレットの骨組として矩形状の枕台及び偏平矩形状のものを用いれば、両側面(載置面)が使用可能なことは、当業者に明らかであるから、この効果が格別のものとはいえない。

①、②、③の効果については、角形スチールパイプを用いることから、④、⑥の効果については、辺縁部に独立気泡性の発泡合成樹脂板を用いることから、⑦の効果については、角形スチールパイプ及び発泡合成樹脂を用いることから当然に奏される効果、すなわち、角形スチールパイプ及び発泡合成樹脂板それ自体が本来有する効果が単に発揮されたにすぎないということができる。

したがって、本願考案の効果は格別のものであるとすることはできず、原告の主張は理由がない。

第3証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

また、第1引用例及び第2引用例の記載内容及び本願考案と第1引用例記載の考案とに審決認定の相違点のあることは、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

1  成立に争いのない甲第11号証(平成元年12月8日付け手続補正書)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は以下のようなものであると認めることができる。

(1)  技術的課題(目的)

従来、運搬用パレットは、木材を材料としているため、虫がつき、含水し易く、長期の使用にて朽腐することがあり、また他の液体等が付着した場合にこれが含浸しやすく、そのため、運搬する荷物が段ボール箱のような場合にあっては、含水のために箱体が湿気を帯びることがあり、付着含浸した液体が臭いを有するものであれば、その臭いが荷物に移ることがあった。

このような点を改良したパレットとして鋼板と合成樹脂材とを用いたものは、昭和40年実用新案出願公告第1632号公報「以下「昭和40年公報」という。)及び第2引用例に記載されているところである。

しかし、昭和40年公報に記載されたパレットは、並列したC型チャンネルの支骨材に対し、1枚の波形板を溶接するとともに、その波形板の4隅を切りとり、この部分に硬質ゴム等の弾性体を取り付けたものであるが、このは波形板が片面だけであるため、常にその使用に注意しなければならず、また、第2引用例に記載されたパレットは、並列した発泡スチロールの桁に対して、1枚の薄鋼板のデッキボードを爪をもって取り付けたものであるが、これもデッキボードは片面だけであるから、両面を使用することはできないものであった。

本願考案の技術的課題(目的)は、従来の一般使用の木製パレットと上記の公報に記載されたパレットの欠点を改良し、極めて堅牢にしてフォークリフトのフォークの差込みに対応することにある(平成元年12月8日付け手続補正書別紙第1頁下から第2行ないし第3頁第12行)。

(2)  構成

本願考案は、前記の技術的課題(目的)を達成するため、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)の構成を採用した(同第1頁第5行ないし第12行、第3頁第14行ないし第4頁第5行)。

(3)  作用効果

本願考案の運搬用パレットは、木材のもののように虫がついたり朽腐したりするおそれは全くなく、また多量の水を含浸することがないから、例えば段ボール箱、その他水分を嫌うような荷物の使用にも差支えなく、その上スチールパイプをもって骨組を構成しているから、極めて堅牢にもかかわらず比較的軽量であり、フォークリフトを差し込む側の辺縁部に独立気泡性の発泡樹脂板を用いることにより、フォークリフトのフォークの滑り及び触れ合いによる騒音の発生を防止することができる。

また、スチールパイプ製の骨組をもって構成しているにもかかわらず、両側面を使用することができる。更に、発泡合成樹脂板の破損に対しても容易に交換することができるものである。しかも、角形スチールパイプと発泡合成樹脂板との組合せであるから、特別注文しなくとも、材料入手も容易で、製作も簡単であるから安価に提供することができる(同第8頁第15行ないし第9頁第12行)。

2  一致点認定の誤りについて

原告は、本願考案の独立気泡性合成樹脂板は、合成樹脂板そのものであるのに対し、第1引用例記載の考案の低発泡合成樹脂板は、木製の端板の外側辺に補強材として結合し取り付けたものであるとして、本願考案と第1引用例記載の考案とは、フォークリフトのフォークを差し込む側の辺縁部の上下に独立気泡性の発泡合成樹脂板を取り付けた運搬用パレットである点において一致すると認定したことの誤りをいう。

しかし、当事者間の争いのない前記の本願考案の要旨からすると、本願考案の運搬用パレットにあっては、発泡合成樹脂板はスチールパイプ製の骨組のフォークリフトのフォークを差し込む側の辺縁部の上下に取り付けられたものであればよく、骨組と結合されることなく単独にてフォークリフトのフォークを差し込む側の辺縁部の上下に配置しされることが必須の構成要件になっているものではないのであるから、本願考案は、骨組を構成する偏平矩形状の角形スチールパイプのフォークリフトのフォークを差し込む側に発泡合成樹脂板を結合させた構成(それは、骨組の材質の点を除き第1引用例記載の考案の構成と一致する。)を排除するものではない。

したがって、審決の前記一致点認定に誤りはなく、原告の主張は本願考案の要旨に基づかないものであり、失当である。

3  相違点に対する判断の誤り

原告は、審決が本願考案と第1引用例記載の考案との相違点に対して示した判断について、第2引用例にも甲第13号証にも運搬用パレットの骨組として偏平矩形状のスチールパイプを用いることは記載も示唆もされていないとし、また、角形スチールパイプが周知であり、軽量化のために用いることも周知であったとしても、これを運搬用パレットの骨組として用いるという技術的思想について裏付けるものはないとして、審決の判断の誤りをいう。

しかし、第2引用例には審決認定のとおり、木製パネルは吸水性が大きいという欠点を解消することを技術的課題(目的)の一つとして、間隔をおいて並列した矩形状の発泡スチロール製のケタの上面に薄鋼板製のデッキボードを取り付けた運搬用パレットが記載されている(この点は当事者間に争いがない。)のであるから、当業者が、第2引用例から示唆を受けて、第1引用例記載の考案の運搬用パレットについて、吸水性が大きいという欠点を解消するために、骨組の材料を木から鋼に代えることはきわめて容易に想到することができるものである。

そして、運搬用パレットは軽量で強固であることが望ましいことは技術常識であり、成立に争いのない甲第4号証(第2引用例)により、第2引用例に「鉄製パネルは重量が重く(中略)取扱いに不便である」(第1欄第24、第25行)、「本考案は上述のように構成したので、従来の木材製又は鉄製のパレットに比べ全体重量を極めて軽減し」(第2欄末行ないし第3欄第2行)、「又本考案のパレットは軽量の割りには全体を強力なものにすることができ」(同欄第10行、第11行)と記載されていることが認められるとおり、第2引用例記載の考案は、上記の点を運搬用パレットの考案における技術的課題(目的)の一つとして捉え、これを解決するために上記の構成を採用したものである。

したがって、第1引用例記載の考案の運搬用パレットの骨組を木からスチールに代えるに当たり、当業者は可能な限り軽量でかつ強固なものとするよう考えることは当然のことといわなければならない。

そして、本件出願時、角形スチールパイプが周知であり、軽量化のために用いられることも周知であることは、当事者間に争いがなく、また、角形スチールパイプが軽量の割に強固なものであることも極めて明らかな技術常識であるから、当業者が第1引用例記載の考案の運搬用パレットの骨組を木からスチールに代えるにあたり、それを軽量かつ強固なものとするよう、角形スチールパイプを採用することは、特別の考案を要することもなく、きわめて容易に想到することができるものである。

したがって、審決が相違点について示した上記の趣旨の判断に誤りはない。

なお、原告は、上記の相違点に対する判断として審決が示した理由につき、甲第13号証を引用して展開した理由は、拒絶査定の理由とはされておらず、新たな証拠に基づく新たな拒絶理由であるとして、審決には実用新案法第41条において準用する特許法第159条第2項で準用する同法第50条の規定に違反している旨主張するもので、この点について検討する。

成立に争いのない甲第2号証(拒絶理由通知書)によれば、拒絶理由通知書には、拒絶理由として、本願考案は、第1引用例、第2引用例と昭和40年公報に記載された各考案から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであることが記載されていることが認められる。

そして、成立に争いのない甲第3号証(昭和40年公報)によれば、昭和40年公報には、C型チャンネルの支骨材に接着させた波形板の4隅を切り取り、該箇所に弾性体を取り付けたフォークリフト用パレット(別紙図面4参照)が記載されていることが認められる。

また、成立に争いのない甲第8号証(拒絶査定の謄本)によれば、拒絶査定の謄本には、本願考案は、前記拒絶理由通知書に記載した理由で拒絶すべきものと認めると記載されるとともに、備考欄に、「昭和40年公報の考案におけるC型チャンネルの支骨材に代えて断面偏平矩形状の角形スチールパイプを用いた点は作用効果上格別変化のない単なる材料の変更にすぎないものであり、フォーク差し込み側辺縁部に発泡合成樹脂による補強材を取り付けることが第1引用例により公知である以上、この技術思想を昭和40年公報の考案に組み込むことは当業者にとってきわめて容易になし得る程度の事項であると認められる。」旨が記載されていることが認められる。

これによれば、拒絶理由通知書又は拒絶査定には、甲第13号証を引用して、骨組がスチール製の運搬用パレットが周知であることも、また、角形スチールパイプが周知であり、軽量化のためにこれを用いることが周知であるということも、記載されていないことが認められる。

しかし、審決が、第2引用例には運搬用パレット材料を木からスチールに代えることが記載されていることを認定した上、その記載されたところの具体化の例としてスチール製の運搬用パレットが開示されている甲第13号証を引用しているにすぎないことは、審決の理由の要点に照らして明らかである。

したがって、甲第13号証は、あくまで第2引用例の記載するところを補強するためのものであり、それとは別の事項の根拠として引用されたものではない。

そして、第2引用例は拒絶理由通知書に記載されており、原告は、これに対して意見を述べる機会が与えられているのであるから、審決において、更に第2引用例が示唆するところが具体化されている例として示す甲第13号証について原告に意見を述べる機会を与える必要は存しない。

また、審決が示す周知事項の点についてみるに、角形スチールパイプ自体及びこれを軽量化のために用いることが周知である点は、原告も争わない。

そして、前認定のとおり、拒絶査定の理由として、「昭和40年公報の考案におけるC型チャンネルの支骨材に代えて断面偏平矩形状の角形スチールパイプを用いた点は作用効果上格別変化のない単なる材料の変更にすぎない」ことが挙げられている。この昭和40年公報は、審決においては拒絶の理由として引用されてはいないが、そこには、角形スチールパイプが周知であることを前提とし、もって、昭和40年公報の考案のC型チャンネルの支骨材に代えて断面偏平矩形状の周知の角形スチールパイプを用いた点は作用効果上格別変化のない単なる材料の変更にすぎないという趣旨であることは当業者であれば容易に理解することができるものである。

審決においては、拒絶理由通知において示されていた第2引用例に基づき運搬用パレットの骨組を木からスチールに代えることが記載されていることを認定し、角形スチールパイプが周知のものであることを理由に、そのスチールとして角形スチールパイプを使用することは単なる設計事項であるとするものであるから、本願考案の運搬用パレットの骨組を角形スチールパイプとした構成の進歩性否定の理由としては、拒絶査定においても審決においても、いずれも角形スチールパイプが周知であることを理由とするものであり、ただ、スチール製のものを示唆する引用例である昭和40年公報の運搬用パレットの支骨材がC型チャンネルであるのに対し、第2引用例記載の考案の運搬用パレットは、デッキボードが薄鋼板のものである点で相違するのみである。

そして、昭和40年公報を引用しての拒絶理由と第2引用例を引用しての拒絶理由とで、原告のとるべき対応に相違があるとは考えられないので(いずれの場合も、運搬用パレットの骨組としてスチールを採用するに当たり、周知の角形スチールパイプを用いることを想到することが当業者にとってきわめて容易とはいえないことについて意見を述べることになる。)、既に拒絶査定において前者の理由で拒絶することが示されており、これに対し審判手続で意見を述べる機会が与えられている以上、後者の理由で拒絶すべき旨の審決をする場合、改めて拒絶理由として通知しなくても、原告が特に不利益を被ることはないと認められる。

したがって、審決に、実用新案法第41条で準用する特許法第159条第2項で準用する同法第50条の規定に違反した違法はないものであり、その違法をいう原告の主張は理由がない。

4  本願考案の奏する作用効果の看過について

原告は、本願考案の奏する効果は、第1引用例及び第2引用例記載の考案や審決認定の周知事項のそれぞれがもつ効果の総和以上の格別の効果とは認められないとした審決の判断の誤りを主張する。

しかし、原告が本願考案の効果と主張する①ないし⑦の効果は、第1引用例記載の考案の運搬用パレットの骨組を木から角形スチールパイプに代えたとこから当然に生ずる効果であり、何ら格別のものとは認められない。

原告が格別の効果であるとして特に協調する③ないし⑥の効果についてみれば、先ず③の本願考案の運搬用パレットは、極めて堅牢にもかかわらず、比較的軽量であるという効果は、その骨組に軽量で堅牢なことが周知の角形スチールパイプを採用したことの当然の効果である。また、④のフォークを差し込む側の辺縁部に独立気泡性の発泡樹脂板を用いることにより、フォークの滑り及び触れ合いによる騒音の発生を防止することができるという効果及び⑥の発泡合成樹脂板の破損に対しても容易に交換することができるという効果も、前2で説示したとおり、本願考案の運搬用パレットの発泡合成樹脂板は偏平矩形状の角形スチールパイプに結合させた構成のものを含む以上、第1引用例記載の考案の運搬用パレットにおけるその点の効果と変わらず、何ら格別のものということはできない。また、⑤の両側面を使用することができるという効果も第1引用例記載の考案の運搬用パレット(間隔をおいて並列した矩形状の台木に対し、その上下面にこれとクロスする方向に偏平矩形状の桟板を取り付けて木製の骨組としている。)が有している効果である。

以上のとおり、原告の主張する本願考案の効果は第1引用例及び第2引用例記載の考案及び審決認定の周知事項から当然に生ずる効果であり、その総和以上のものではないのであるから、審決に本願考案の奏する作用効果を看過した違法はなく、原告の主張は理由がない。

5  以上のとおり、原告の主張する審決の取消事由はいずれも理由がなく、審決には原告主張の違法はない。

第3  よって審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例